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『アニメージュ』とアニメ誌戦国時代【新保信長】 連載「体験的雑誌クロニクル」19冊目

新保信長「体験的雑誌クロニクル」19冊目

 

 『OUT』といえば、1980年3月号の特集「機動戦士ガンダムのすべてPart1」の巻頭カラーに掲載された一枚のイラストも忘れられない。「悩ましのアルテイシア」と題されたセイラ・マス(またの名をアルテイシア・ソム・ダイクン)のヌードイラスト。誰が描いたのか知らないが、ガンダム随一の美形キャラのあられもない姿は、アニメオタクの青少年に衝撃を与えた。「パロディ・ピンナップ」と銘打ってはいるものの、公式の資料と同じ誌面にこんなものが載っているのだから、大らかな時代だったのだ。

 

『OUT』(みのり書房)1980年3月号。記事画像はp16-17より

 

 『機動戦士ガンダム』放映中の1979年末には、前述のとおり『ジ・アニメ』が創刊される。創刊号の表紙は、1980年公開の映画版『あしたのジョー』にちなみ、矢吹丈のイラストだった。巻頭企画は「創刊記念 新作アニメ映画一挙公開」で、トップを飾るのは『ルパン三世 カリオストロの城』だ。かの宮崎駿監督の劇場アニメ第1作。『未来少年コナン』でその名を知り、ファンになった者としては、トップ扱いはうれしい。

  ただし、全体的に『アニメージュ』に倣ったような誌面で、個性には欠けた。ガンダムについては「特別企画 人気No.1『機動戦士ガンダム』グラフ名場面集!」と題した7ページの企画があるが、正直おざなりな感じ。「宇宙の正義と平和を守り激闘!ガンダム」という見出しには、「そういう作品じゃないだろ!」とツッコみたくなる。

 その点、同じ197912月号の『アニメージュ』の巻頭企画「もういちど見たい18シーン」は一味違う。前番組『無敵鋼人ダイターン3』最終回に流れた予告編全カット掲載に始まり、シャアがアイマスクを外した瞬間、シャアのシャワーシーン、セイラの水着姿、ミライの入浴シーンなどツボを押さえたセレクトで、『ジ・アニメ』とは天と地ほどの差があった。公開直前の『カリオストロの城』の記事も、圧倒的に内容が濃い。限られた小遣いの中から『アニメージュ』『アニメック』『OUT』を買っていた私としては、『ジ・アニメ』は創刊号だけで「もういいや」と見限ってしまったのだ。

 

上・『ジ・アニメ』(近代映画社)1979年12月号p74-75、下・『アニメージュ』1979年12月号p24-25より

 

『宇宙戦艦ヤマト』と同じく本放送の視聴率は振るわなかった『機動戦士ガンダム』だが、やはり再放送で人気爆発、1981年3月に映画版が公開された。同年7月には『機動戦士ガンダムⅡ 哀・戦士編』も公開されており、初期ガンダムブームのピークと言える。そのタイミングで創刊されたのが『マイアニメ』と『アニメディア』で、前者は安彦良和描き下ろしのシャア、後者は同年8月公開の映画『さよなら銀河鉄道999』のメーテルと鉄郎だった。

 が、この2誌は書店でパラパラ見ただけで、買ってはいない。今回あらためてチェックしてみると、『マイアニメ』には、松本零士とスタジオぬえメンバーの座談会など、力の入った記事はあり、新谷かおると吾妻ひでおのマンガも載っている。『アニメディア』のほうも、巻頭のガンダム特集の富野喜幸・安彦良和インタビューや安彦良和が動画を担当した教育短編映画『火事と子馬』の発掘紹介など、見るべき点はある。

 とはいえ、すでに3誌を買っているうえに、さらにアニメ誌を買うのは、当時高校生の身には厳しかった。『アニメージュ』は1982年に宮崎駿『風の谷のナウシカ』の連載が始まって、ますます買わざるを得なくなるし、『OUT』『アニメック』も買わなきゃだし、そこに『マイアニメ』『アニメディア』の入る余地はなかったのだ。

次のページアニメ誌戦国時代を生き残った3誌の存在意義

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新保信長

しんぼ のぶなが

流しの編集者&ライター

1964年大阪生まれ。東京大学文学部心理学科卒。流しの編集者&ライター。単行本やムックの編集・執筆を手がける。「南信長」名義でマンガ解説も。著書に『国歌斉唱♪――「君が代」と世界の国歌はどう違う?』『虎バカ本の世界』『字が汚い!』『声が通らない!』ほか。南信長名義では『現代マンガの冒険者たち』『マンガの食卓』『1979年の奇跡』など。新刊『漫画家の自画像』(左右社)が絶賛発売中です!

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